特定技能ビザの対象国と国籍別の確認事項|ネパール・韓国・中国の実務ポイント

目次

    「採用したい候補者はネパール人なんですが、韓国人の友人と手続きが違うって本当ですか?」——特定技能ビザの相談を受けていると、こういった疑問を担当者の方からよくいただきます。

    特定技能ビザは、国籍に関係なく申請できる制度です。しかし実際には、候補者の国籍によって必要な書類、送り出し機関の利用義務、翻訳の形式、よくある書類トラブルの種類が異なります。「一律に同じ手続きでいい」と思って進めると、書類の不備や審査遅延につながることがあります。

    この記事では、特定技能ビザの対象国の考え方と、採用担当者が国籍別に押さえるべき実務確認事項に絞ってお伝えします。

    この記事でわかること

    • 特定技能ビザの「対象国」と二国間協定(MOC)の関係
    • ネパール国籍者に多い氏名表記トラブルと対処法
    • 韓国国籍者は在日・新規来日でルートが異なる理由
    • 中国国籍者の公証書類と翻訳の注意点
    • フィリピン・ベトナムの送り出し機関確認方法

    筆者は池袋行政書士事務所(リライアンス東京)の代表行政書士です。特定技能の在留資格申請を多数手がけており、国籍別のトラブル事例を日々の業務で経験しています。制度の条文からは見えない「現場の落とし穴」を中心にお伝えします。

    特定技能ビザに「対象国の制限」はあるか

    まず大前提を確認しておきましょう。特定技能ビザは、どの国籍の方でも申請できます。出入国在留管理庁は国籍を理由に特定技能の申請を拒否することはありません。

    ただし、日本政府と二国間協定(MOC:Memorandum of Cooperation)を締結している国の国籍者については、その国の政府が認定した「送り出し機関」を通じて日本へ来ることが求められるケースがあります。送り出し機関が絡むと、書類の準備や認証手続きが増え、スケジュールも変わってきます。

    参考情報

    出入国在留管理庁の公式情報によると、特定技能の適正な送り出し・受け入れのための二国間協定(MOC)は、ベトナム・フィリピン・カンボジア・中国・インドネシア・タイ・ミャンマー・モンゴル・スリランカ・バングラデシュ・ネパール・ウズベキスタン・パキスタン・インド・韓国など複数の国々と締結されています。

    区分 主な国 送り出し機関
    MOC締結国 ベトナム・フィリピン・ネパール・インドネシア・韓国・中国(一部)など 各国政府認定機関の利用が必要
    MOC未締結国 その他の国籍(欧米・アフリカ・中東など) 特に指定なし(自由に手続き可)

    実務的には、採用候補者の国籍を確認したうえで、その国のMOC締結状況と送り出し機関リストを確認することがスタートラインになります。以下、国籍別の主な確認事項を解説します。

    ネパール国籍者の特定技能ビザ—氏名表記の不一致が最大の落とし穴

    ネパール国籍者は、特定技能外国人の中でもベトナム・フィリピンに次いで多く、特に飲食料品製造業や外食業で採用されるケースが増えています。MOCは2019年に締結済みで、ネパール外務省が認定した送り出し機関を通じた手続きが必要です。

    ネパールの主要な身分証明書はCitizenship Certificate(市民権証明書)です。日本でいう戸籍謄本に相当するもので、在留資格申請の際には日本語への翻訳が必要になります。翻訳には翻訳者の氏名・連絡先の記載が求められ、認証翻訳事務所や行政書士事務所に依頼するケースが一般的です。

    よくあるトラブル:氏名ローマ字表記の不一致

    ネパール人採用でもっとも多いトラブルが、書類間の氏名ローマ字表記の不一致です。ネパールの文書ではデーヴァナーガリー文字(ネパール語の文字)で記載されますが、ローマ字転写のルールが統一されておらず、パスポート・Citizenship Certificate・学歴証明書・雇用契約書で異なる表記になることがあります。

    たとえば「Shrestha」「Shretha」「Shresth」のように、同一人物の書類でも微妙に表記が異なるケースは珍しくありません。入管の審査では、すべての書類で同一人物であることの確認が行われるため、表記が違うと疑義が生じ、追加説明資料の提出を求められることがあります。

    内定後すぐに全書類の氏名を確認する

    ネパール人候補者の書類は、内定後・費用発生前の早い段階でパスポート・Citizenship Certificate・学歴証明書のローマ字表記を全て確認してください。表記が異なる場合、ネパール側の公的機関(郡行政局等)への確認書取得が必要になることがあり、数週間〜数ヶ月のタイムロスが発生することがあります。

    また、ネパールでは技能試験や日本語試験(JFT-BasicまたはJLPT)の国内受験機会が増えており、首都カトマンズなどで定期的に実施されています。日本語試験の日程は年に数回しかないため、来日予定から逆算して受験スケジュールを組むことが重要です。

    韓国国籍者の特定技能ビザ—在日韓国人と新規来日でルートが異なる

    韓国国籍者が特定技能ビザを取得するケースは、大きく2つのパターンに分かれます。在日韓国人(すでに日本に在住している方)と、韓国から新たに来日する方では、手続きの流れも書類も異なります。まずどちらのパターンかを把握することが最初のステップです。

    パターン1:在日韓国人(特別永住者・留学生など)からの在留資格変更

    すでに日本に在住している韓国国籍者が特定技能に在留資格を変更する場合は、国内での申請(在留資格変更許可申請)になります。海外での公証書類取得が不要なため、手続きは比較的シンプルです。必要書類のほとんどが国内で取得・準備できます。

    日本の学校を卒業している場合は日本語試験免除

    特定技能の日本語要件(JFT-BasicまたはJLPT N4以上)は、日本の高校・専門学校・大学などを卒業している方は免除されます。在日韓国人の留学生などはこのルートが活用できるため、採用のハードルが下がります。

    パターン2:韓国から新規来日する場合

    韓国から新規に来日する場合は、在留資格認定証明書(CoE)の交付申請を日本国内で行い、認定後に韓国でのビザ申請となります。この場合、韓国の身分証明書類の翻訳が必要です。

    韓国では日本の戸籍謄本に相当する書類として、가족관계증명서(家族関係証明書)기본증명서(基本証明書)が用いられます。これらは韓国の住民センターや政府の電子政府サービスで取得でき、日本語への翻訳が必要になります。

    また、技能試験については、韓国国内でも一部の分野で受験が可能になっています。ただし実施頻度や分野は変わることがあるため、出入国在留管理庁や各分野の試験実施機関の最新情報を確認してください。

    MOC締結後の送り出し機関ルールを確認すること

    日韓間ではMOCが締結されており、韓国から新規来日する場合に送り出し機関の利用が求められるケースがあります。制度の詳細は変更されることもあるため、申請時点での出入国在留管理庁の最新情報または行政書士への確認をお勧めします。

    中国国籍者の特定技能ビザ—公証書類と翻訳の注意点

    中国国籍者が特定技能ビザを申請する場合、包括的な二国間MOCは現時点で締結されていないものの、分野によって個別の対応が求められることがあります。書類面では、中国特有の公証制度への理解が欠かせません。

    中国の身分証明書類は主に2種類です。户口本(フーコウ:戸籍簿)は家族単位で管理される住民登録書で、日本の戸籍謄本に近い機能を持ちます。居民身分証(身分証明書)は個人が持つIDカードです。これらを申請書類として使用する場合、日本語翻訳の添付が必要です。

    参考情報

    中国で発行された公文書を日本の行政手続きで使用する場合、中国の公証処(Notary Public)で発行した公証書(認証済み翻訳)が求められることがあります。公証処は中国各地の司法局の管轄下にあり、書類の真正性を証明します。在日中国大使館・領事館でのさらなる認証(アポスティーユに相当)が必要なケースもあります。

    翻訳については、公証処が発行した公証書の日本語訳(またはすでに日本語が含まれる公証書)を用意することが一般的です。私的な翻訳(翻訳業者・行政書士事務所等)でも受理される場合がありますが、翻訳者の氏名・連絡先の記載が必要です。

    なお、中国国籍者の場合、技能試験や日本語試験を中国国内で受験できる機会も増えています。JLPTの受験者数は中国が世界最多水準であり、N4以上の取得者も多いため、日本語要件のクリアは他国と比べて比較的容易な場合があります。

    フィリピン・ベトナムの送り出し機関確認ポイント

    特定技能外国人の国籍別では、ベトナム・フィリピンが上位を占めています。どちらもMOCが早期に締結されており、送り出し機関の利用が必須です。

    1フィリピン—POEA認定機関とPOLO認証

    フィリピン国籍者を採用する場合、フィリピン政府機関であるDMW(Department of Migrant Workers、旧POEA)が認定した送り出し機関を利用する必要があります。また、雇用契約書などについてはPOLO(Philippine Overseas Labor Office:フィリピン海外労働事務所)での認証が必要です。POLOは日本各地の都市に設置されています。

    重要なのは、受け入れ企業側が送り出し費用を原則負担するルールです。フィリピンの規定により、求職者(外国人側)から採用・送り出しに関する費用を徴収することが禁じられています。費用負担の確認を怠ると、フィリピン当局から出国停止処分が下るリスクがあります。

    2ベトナム—DOLAB登録機関と適正機関リスト

    ベトナム国籍者については、DOLAB(Department of Overseas Labour Affairs:海外労働局)が管理する登録送り出し機関リストに掲載されている機関の利用が求められます。出入国在留管理庁のウェブサイトでは、分野ごとの「適正な送り出し機関リスト」が公開されているため、必ず最新のリストで確認することが必要です。

    悪質送り出し機関に注意

    過去には、リストに未掲載の送り出し機関が高額な手数料を外国人側から徴収したり、虚偽の書類を作成したりする悪質なケースがありました。受け入れ企業も善意でも巻き込まれるリスクがあります。必ず法務省・出入国在留管理庁が公表している適正機関リストを確認し、リスト外の機関の利用は避けてください。

    行政書士が見た「国籍別書類準備の実際」

    国籍別の確認事項を頭で理解していても、実際の申請現場では予想外のトラブルが起きることがあります。先日、都内の食品製造工場を営む企業の人事担当者からご相談をいただきました。

    「ネパール人のスタッフを採用することになって、書類を集め始めたんですが、パスポートと学校の卒業証明書で名前が全然違う。これって本人が書類を偽造したんでしょうか?」

    これはよくある誤解です。書類偽造ではなく、ネパール語のローマ字転写のゆらぎによるものがほとんどです。ネパールでは公的機関ごとに担当者がローマ字転写を行うため、同じ名前でも書類によって「Sharma」「Sarma」「Sharme」のように異なる表記が生じます。

    この場合に必要なのは、ネパール現地の郡行政局(地区行政事務所)またはネパール大使館・領事館から「同一人物である」旨の証明書を取得することです。これには現地での手続きが必要で、数週間から状況によってはそれ以上の時間がかかることがあります。

    私がお伝えしているのは、書類の氏名確認は内定と同時に行うということです。採用コストや研修費を投じた後に「書類が揃わない」という事態は、企業にとっても候補者にとっても避けたい状況です。国籍ごとのリスクを把握した上で、早期に書類チェックのプロセスを組み込んでおくことが、スムーズな特定技能採用の鍵になります。

    書類確認のタイミング

    特定技能採用では、内定を出すと同時に「パスポート・身分証明書・学歴証明書の写しを全て提出してもらい、氏名表記を照合する」プロセスを必ず設けてください。書類の準備に時間がかかると採用スケジュール全体が後ろ倒しになります。不安な場合は、内定前の段階で行政書士に書類チェックを依頼することも選択肢の一つです。

    まとめ

    • 特定技能ビザは国籍に関係なく申請可能。ただし、MOC締結国では送り出し機関の利用義務が生じる
    • ネパール国籍者は書類間の氏名ローマ字表記の不一致が最大リスク。内定直後に全書類の氏名照合を行うこと
    • 韓国国籍者は「在日」か「新規来日」かでルートが異なる。在日韓国人は日本語試験免除の活用も検討できる
    • 中国国籍者は公証処の証明書と日本語翻訳の準備が必要。翻訳者氏名・連絡先の記載を忘れずに
    • フィリピン・ベトナムは適正な送り出し機関リストの確認が必須。悪質機関のリスクを理解しておく

    国籍別の確認事項は複雑に見えますが、事前に把握しておくことで採用スケジュールの遅延を防ぐことができます。特定技能の申請書類の準備や国籍別の対応について、池袋行政書士事務所(リライアンス東京)では無料相談を受け付けています。お気軽にご相談ください。

    井崎忠弘

    この記事を書いた人

    井崎 忠弘行政書士

    リライアンス東京行政書士事務所の代表行政書士。就労ビザ申請取次・相続・会社設立など幅広い業務に対応。依頼者に寄り添い、わかりやすい説明を心がけています。