特定技能ビザの製造業採用で確認すべき業務範囲と試験区分

目次

    「製造ラインに特定技能の外国人を採用したいが、どの区分で申請すればいいのかわからない」——当事務所にはこうした相談が製造業の採用担当者から頻繁に届きます。

    特定技能ビザで製造業の現場人材を採用するには、業務区分と技能試験の対応関係を正確に理解することが不可欠です。ところが、2022年の制度改正で製造業3分野が「工業製品製造業」として1分野に統合されたことを知らないまま準備を進めている担当者が少なくありません。また統合後も業務区分(試験区分)は細分化されたまま残っており、採用したい工程が「どの区分に該当するか」を見誤ると、試験の確認漏れや書類の不備につながります。

    この記事では、製造業の採用担当者が特定技能ビザの手続きを正しく進めるために必要な「業務区分の全体像」と「試験区分との対応関係」を実務の視点で整理します。

    この記事でわかること

    • 製造業3分野が「工業製品製造業」に統合された経緯と実務への影響
    • 統合後に残る業務区分(試験区分)の全体像と現場工程との対応関係
    • 複数工程を担当させる場合の「主たる業務区分」の考え方
    • 技能実習修了者を特定技能に切り替える際の「区分マッチング」の注意点
    • 採用前に確認すべき4つのチェックポイント

    筆者は池袋を拠点とする行政書士事務所(リライアンス東京)で、製造業・外国人材採用の在留資格申請を数多く手がけてきました。実際の相談事例をもとに、採用担当者が現場で使える知識をお伝えします。

    製造業の特定技能は「3分野」から「1分野」に統合された

    製造業3分野が工業製品製造業に統合された変化を示す図解

    2019年4月に特定技能制度が創設された当初、製造業に関連する分野は以下の3つに分かれていました。

    • 素形材産業——鋳造・鍛造・ダイカスト・溶接・金属プレス加工・めっきなど
    • 産業機械製造業——機械加工・工場板金・仕上げ・機械保全・機械検査など
    • 電気電子情報関連産業——電子機器組立て・電気機器組立て・プリント配線板製造など

    この3分野は、2022年4月の省令改正により「工業製品製造業」として1分野に統合されました。これは、製造現場での複合的な工程管理に対応しやすくするための改正です。統合により、受入れ企業は「素形材産業」か「産業機械製造業」かといった分野の区別を意識せずに採用申請できるようになりました。

    参考情報

    経済産業省は2022年4月1日付で、製造3分野を「工業製品製造業」に統合する告示改正を施行。これにより特定産業分野の数は14分野から12分野に変更されています(農業・漁業・飲食料品製造業・外食業・建設・造船・自動車整備・航空・宿泊・ビルクリーニング・介護・工業製品製造業の12分野)。

    ただし、統合後も「業務区分(試験区分)」は細分化されたまま継続しています。採用担当者にとっては、この点が最も重要な実務上のポイントです。「1分野になったから何でもできる」という誤解が生まれやすいため注意が必要です。

    注意点

    「工業製品製造業」に統合されても、技能試験は依然として区分ごとに設けられています。「溶接」の試験に合格した外国人は溶接作業に就けますが、「機械加工」の作業に就かせるためには機械加工の試験合格が別途必要です。分野の統合と業務区分の細分化は別の話であることを押さえておいてください。

    工業製品製造業の業務区分と現場工程の対応

    工業製品製造業の特定技能には、以下の業務区分が設定されています。採用したい現場工程がどの区分に該当するかを、まずこの一覧で確認してください。

    業務区分(試験区分) 現場での主な作業内容 旧分野の区分
    鋳造 溶融金属の鋳型への注入・製品取り出し・仕上げ 素形材産業
    鍛造 金属材料のプレス・ハンマーによる成形加工 素形材産業
    ダイカスト 溶融金属を金型に高圧注入する鋳造加工 素形材産業
    機械加工 旋盤・フライス盤・マシニングセンタ等による切削加工 産業機械製造業
    金属プレス加工 プレス機による金属板の打ち抜き・曲げ・絞り加工 素形材産業
    鉄工 鋼材の切断・曲げ・穴あけ等の加工・組立て 産業機械製造業
    工場板金 薄板金属の切断・曲げ・接合による板金加工 産業機械製造業
    めっき 電気めっき・化学めっきによる表面処理 素形材産業
    アルミニウム陽極酸化処理 アルミ製品の陽極酸化(アルマイト)処理 素形材産業
    仕上げ 研削・研磨・バリ取りによる部品の最終仕上げ 産業機械製造業
    機械検査 測定器・検査機器を使った製品の寸法・品質検査 産業機械製造業
    機械保全 生産設備・機械の点検・調整・修理 産業機械製造業
    電子機器組立て 電子部品の実装・はんだ付け・組立て 電気電子情報関連産業
    電気機器組立て モーター・変圧器・制御盤等の電気機器組立て 電気電子情報関連産業
    プリント配線板製造 プリント配線板(PCB)の製造・加工工程 電気電子情報関連産業
    プラスチック成形 射出成形・押出成形・ブロー成形によるプラスチック加工 素形材産業(追加区分)
    塗装 スプレー・静電塗装・粉体塗装による塗装作業 素形材産業(追加区分)
    溶接 アーク溶接・MIG溶接・TIG溶接等の溶接作業 素形材産業
    工業包装 製品の防錆・防水・緩衝材使用による工業包装 産業機械製造業(追加区分)

    複数工程を担当させる場合の「主たる業務区分」の考え方

    製造現場では「溶接もできるが、仕上げも担当してほしい」というニーズが少なくありません。特定技能外国人が複数の区分にまたがる作業を担う場合は、従事時間が最も長い工程を「主たる業務区分」として申請します。

    「溶接がメインですが、バリ取りなどの仕上げ作業も同じラインで行います。この場合、どちらの区分で申請すればいいですか?」

    この場合、1日の就労時間のうち溶接が占める割合が高ければ「溶接」区分で申請します。仕上げ作業は付随業務として認められるケースが一般的ですが、担当比率が逆転するようであれば複数区分への対応が必要です。また、求人票・雇用契約書・業務指示書上の業務内容も申請区分と一致させる必要があります。書類と実態が乖離していると審査の遅延・不許可につながるため注意してください。

    注意点

    「とりあえず使えそうな区分で申請しよう」は危険です。在留資格申請は業務実態に基づいて審査されます。採用後に実際の業務が申請区分と異なることが発覚すると、更新申請に影響が出る可能性があります。採用前に「現場でどの作業を何時間担当させるか」を明確にしておくことが重要です。

    技能試験は区分ごとに設けられている

    製造業の特定技能試験を受験している外国人のイメージ

    特定技能「工業製品製造業」の技能試験は、業務区分ごとに「製造分野特定技能1号技能測定試験」として実施されます。試験の形式は区分によって異なりますが、概ね以下の構成で行われます。

    試験種別 内容 備考
    学科試験 真偽式・四択式の筆記試験(各区分の専門知識) 日本語・英語・ベトナム語等で実施
    実技試験(判断試験) 図面・写真・現物を見て正誤・手順を判断 現場技能の把握度を確認
    実技試験(計算試験) 工程・寸法・数量などの計算問題 区分によって出題あり・なしが異なる

    試験の実施機関は区分によって異なり、例えば溶接区分は一般社団法人 日本溶接協会、機械加工区分は一般社団法人 日本機械工業連合会が主管しています。試験の実施スケジュール・受験地・申込方法はそれぞれの機関に確認が必要です。

    採用候補者の試験合格を先に確認する

    「試験はこれから受けてもらう」という状態のまま採用手続きを進めようとするケースが散見されます。在留資格認定証明書の申請や変更申請には、原則として技能試験合格証(または技能実習修了証明書)が必要です。試験の合否が確定してから申請を開始するのが実務上の鉄則です。

    技能実習修了者を切り替える際の「区分マッチング」

    技能実習から特定技能への移行フローを示すイラスト

    製造業の採用担当者から特に多いのが、「技能実習修了者を特定技能に切り替えたい」というご相談です。技能実習2号を良好に修了した外国人は、技能試験が免除されて特定技能1号に移行できます。しかし、ここで見落とされがちな重要ポイントがあります。

    それは、技能実習の職種・作業と、特定技能の業務区分が「対応関係」にある場合に限り試験免除が適用されるという点です。

    「技能実習で機械加工を3年間やっていたスタッフを、うちの溶接ラインに特定技能で受け入れたいんですが…試験は免除になりますか?」

    この場合、試験免除にはなりません。技能実習の職種「機械加工」に対応する特定技能の区分は「機械加工」です。「溶接」区分での就労を希望する場合は、別途「溶接」区分の技能測定試験に合格する必要があります。

    技能実習の職種・作業(例) 対応する特定技能区分 試験免除の可否
    溶接(手溶接作業・半自動溶接作業) 溶接 免除可
    機械加工(普通旋盤作業・フライス盤作業等) 機械加工 免除可
    電子機器組立て(電子部品実装作業) 電子機器組立て 免除可
    機械加工 溶接 免除不可(試験必要)
    プラスチック成形(射出成形) 機械加工 免除不可(試験必要)

    区分マッチングの確認は採用前に必ず実施を

    技能実習修了証明書の「職種・作業」欄と、採用したい特定技能区分の対応関係は、出入国在留管理庁が公開する「対応関係一覧」で確認できます。候補者が複数の作業区分を修了している場合は、採用したい業務に対応する区分との照合が必要です。判断に迷う場合は申請前に専門家へご相談ください。

    採用前に確認すべき4つのチェックポイント

    製造業で特定技能外国人を採用する前に、以下の4点を必ず確認してください。これらを事前に整理しておくことで、申請後のトラブルや手続きの遅延を防ぐことができます。

    チェック1 採用したい現場工程が19区分のどれに当たるかを特定する

    「製造業だから採用できるはず」という認識だけでは申請に進めません。まず採用予定の工程(溶接・機械加工・組立て・検査 など)を19区分の一覧に照らし合わせ、申請区分を特定してください。複数工程がある場合は、主たる業務区分を決めておくことが先決です。

    チェック2 候補者が該当区分の試験に合格しているか(または試験免除の要件を満たすか)を確認する

    技能試験合格証、または技能実習2号修了証明書(修了職種・作業を確認)を入手し、採用予定区分との対応関係を確認してください。合格・修了の証明書類がそろっていない状態では申請を受け付けてもらえません。

    注意点

    技能実習修了者の場合、修了した職種・作業が採用区分と対応しているか必ず照合してください。「技能実習で製造業をやっていた」という情報だけでは確認として不十分です。

    チェック3 候補者の現在の在留資格・在留期限を確認する

    候補者がすでに日本に在留している場合、現在の在留資格の種類と在留期限の確認が必要です。在留期限が迫っている場合は手続きを急ぐ必要があり、在留資格の変更には通常1〜3ヶ月かかる点を考慮したスケジュールを組んでください。海外在住の候補者を招へいする場合は、在留資格認定証明書の申請から入国まで数ヶ月の期間を見込んでください。

    チェック4 支援計画の実施体制(登録支援機関)を決めておく

    特定技能外国人を雇用する企業は、生活支援・定期面談・行政手続き補助などを含む「支援計画」の策定・実施が義務付けられています。自社で対応できる体制がない場合は、登録支援機関への委託が現実的です。委託費用の相場は月2〜5万円程度です。採用前に登録支援機関の選定と費用の見積もりを済ませておくと、申請準備がスムーズに進みます。

    • 採用予定の現場工程が19業務区分のどれに該当するかを特定している
    • 候補者の試験合格証または技能実習修了証明書(職種・作業確認済み)を入手している
    • 候補者の在留資格・在留期限を確認し、手続きスケジュールを組んでいる
    • 登録支援機関の選定・費用の見積もりが完了している

    よくある質問(FAQ)

    Q1人の特定技能外国人に複数の区分の作業を担当させることはできますか?

    A

    複数区分の作業を担当させること自体は可能ですが、申請は主たる業務区分(最も従事時間が長い区分)で行い、その区分の試験に合格していることが前提です。例えば溶接がメインで仕上げが付随業務であれば、溶接区分で申請し、溶接の試験合格証が必要です。作業ごとの時間配分・雇用契約書の業務内容との整合性も審査対象となるため、詳細は専門家に相談することをお勧めします。

    Q製造業で特定技能2号はありますか?

    A

    あります。2023年6月の閣議決定により、工業製品製造業を含む11分野で特定技能2号が認められるようになりました。特定技能2号は在留期間の更新制限がなく、家族帯同も可能なため、長期的な人材定着を考えるうえで重要な選択肢です。2号への移行には各区分に定められた2号技能試験への合格が必要で、難易度は1号より高く設定されています。1号採用時から2号移行を視野に入れたキャリア支援を行うことで、外国人材の定着率向上が期待できます。

    Q採用から実際に就労開始までどのくらいの期間がかかりますか?

    A

    海外から招へいする場合は、在留資格認定証明書の申請から入国・就労開始まで通常3〜6ヶ月が目安です。すでに国内に在留している外国人の在留資格変更では、1〜3ヶ月程度が一般的です。申請書類の準備状況や審査時期によって変動するため、採用決定後はできるだけ早く手続きを開始することをお勧めします。技能実習から特定技能への変更(在留期限内)は、書類が整っていれば比較的スムーズに進むケースが多いです。

    Q製造業で特定技能外国人を雇用する場合、日本語能力はどの程度必要ですか?

    A

    日本語能力試験N4相当以上が求められます。N4は「基本的な日本語が理解できる」レベルで、日常的な業務指示や安全注意事項を理解できる水準とされています。技能実習2号修了者は日本語試験も免除されます。製造現場では安全管理の観点から、実際の業務遂行に必要な日本語コミュニケーション能力を採用前に確認しておくことを推奨します。

    まとめ

    製造業で特定技能ビザを活用するには、「工業製品製造業」に統合された後も残る業務区分(19区分)の中から、採用したい現場工程に対応する区分を正確に把握することが第一歩です。

    • 製造業3分野は2022年4月に「工業製品製造業」に統合。ただし業務区分・試験区分は継続して存在するため、採用区分の特定は必須
    • 技能実習修了者の移行では、修了した職種・作業と特定技能区分の「対応関係」を必ず照合する。区分が異なれば試験免除にならない
    • 採用前に「区分の特定」「試験合格の確認」「在留資格の確認」「支援計画の体制構築」の4点を整えておくことで、申請後のトラブルを防ぐことができる
    特定技能ビザ製造業まとめ

    「採用したい工程が何区分にあたるかわからない」「技能実習修了者の区分対応を確認したい」「申請書類を一から準備したい」という場合は、ぜひ当事務所(池袋行政書士事務所 リライアンス東京)にご相談ください。初回相談は無料で対応しております。製造業の特定技能採用に精通した行政書士が、現場の実態に合わせた申請方針をご提案します。

    井崎忠弘

    この記事を書いた人

    井崎 忠弘行政書士

    リライアンス東京行政書士事務所の代表行政書士。就労ビザ申請取次・相続・会社設立など幅広い業務に対応。依頼者に寄り添い、わかりやすい説明を心がけています。