特定技能ビザ「介護」とは?訪問介護の可否と採用時の注意点を行政書士が解説

目次

    「特定技能ビザを使って外国人を採用したいが、うちは訪問介護も運営している。外国人スタッフに訪問に行かせることはできるのだろうか」——この質問は、介護事業者の方からご相談を受ける際に非常によく耳にします。

    結論から申し上げると、特定技能ビザ「介護」では、訪問介護業務に従事させることは認められていません。しかしその理由や、具体的にどの施設・業務ならOKなのかを正確に把握している採用担当者は、まだ多くありません。

    この記事では、特定技能ビザの介護分野について、業務範囲・訪問介護が対象外となっている理由・特有の日本語要件・現場配置の注意点まで、行政書士として現場のご相談に携わってきた立場からわかりやすく解説します。

    この記事でわかること

    • 特定技能ビザで介護分野に従事できる業務・できない業務の範囲
    • 訪問介護が対象外となっている理由(3つの観点から解説)
    • 受入可能な施設・受入不可の施設の一覧
    • 介護分野だけが求める「日本語の二重要件」とは何か
    • 現場配置・夜勤に関する実務上の注意点

    私は池袋で介護・医療・建設分野を中心に外国人材の在留資格申請を取り扱う行政書士です。介護事業者様から特定技能に関するご相談をいただく機会が増えており、実際の申請業務・事業所への指導対応を通じて見えてきたポイントをこの記事にまとめています。

    特定技能ビザ「介護」で従事できる業務・できない業務

    介護施設で外国人スタッフと日本人スタッフが協働しているイメージ

    特定技能「介護」とは、在留資格「特定技能1号」の対象14分野のひとつです。慢性的な人手不足が続く介護現場において、即戦力となる外国人材を受け入れるための在留資格として2019年4月に創設されました。

    この在留資格を持つ外国人材(以下「特定技能外国人」)が介護事業所で従事できる業務は、厚生労働省の告示によって定められています。

    区分具体的な業務内容
    従事できる業務 身体介護(食事・入浴・排泄・移動・着脱衣の介助)
    生活援助(掃除・洗濯・食事の準備など)
    記録・申し送り業務
    レクリエーションの支援
    利用者・家族とのコミュニケーション
    従事できない業務 訪問介護(ホームヘルパー業務)
    医療行為(注射・点滴・投薬管理)
    居宅介護支援(ケアマネジャー業務)
    訪問看護

    なかでも特に注意が必要なのが「訪問介護」です。訪問介護は介護サービスの中でも重要な位置を占めていますが、特定技能外国人を従事させることは告示で明確に禁じられています。次のセクションでは、その理由を詳しく解説します。

    よくある誤解

    「訪問もできる複合型施設だから、訪問以外のサービス従事者として採用すれば問題ない」と考える方がいますが、正確な理解が必要です。小規模多機能型居宅介護などでは、通い・泊まりのサービスには従事できますが、「訪問」の部分への配置は認められていません。複合型施設の場合は、業務の配置管理を明確に分けておくことが重要です。

    なぜ訪問介護は対象外なのか?その理由を行政書士が解説

    施設介護はOK、訪問介護はNGの対比イメージ

    「なぜ訪問介護だけがダメなのか」という疑問を持つ方は多いです。厚生労働省は訪問介護が対象外である理由を明示していますが、以下の3点に整理してお伝えします。

    理由1:密室・単独環境での適切な指導・監督が困難

    施設介護では、複数のスタッフが同じ空間で業務を行います。問題が起きたとき、先輩スタッフや管理者がすぐに対応できる環境です。一方、訪問介護は利用者の自宅という一対一の密室空間で行われます。

    日本語での咄嗟の対応・利用者の急変対応・家族とのトラブル対処など、即座の判断が求められる場面で、経験が浅い外国人材が単独で対応することは、利用者の安全を守る観点から適切ではないと判断されています。特定技能外国人はそれぞれの試験に合格した一定水準の人材ですが、監督者不在の現場での単独業務には制度上の制約が設けられています。

    理由2:利用者のプライバシーと財産保護の観点

    訪問介護では、利用者の自宅に入り、財布・通帳・貴重品がある生活空間で業務を行います。金銭トラブルや盗難被疑案件は、施設よりも訪問介護での発生リスクが高いとされています。

    仮に悪意がなくとも、「言語・文化の違いによる誤解」が問題に発展する可能性を制度的に排除する目的もあります。外国人材の保護という観点からも、こうした環境への配置は避けるべき、という行政の判断が反映されています。

    理由3:介護報酬・資格要件との整合性

    訪問介護員(ホームヘルパー)は、介護報酬を請求するうえで「介護職員初任者研修修了」以上の資格が求められます。さらに、ケアマネジャーや利用者・家族との連絡調整・報告書の作成など、日本語の読み書きを高水準で要求される業務が多い点も、制度上の線引きに影響しています。

    まとめ:訪問介護が対象外の3つの理由

    • 監督者不在の一対一密室環境で単独業務を行うリスクを避けるため
    • 利用者の財産・プライバシー保護および外国人材自身の保護のため
    • 介護報酬・資格要件・日本語要求水準との整合性を保つため

    受入可能な施設・受入不可の施設の一覧

    特定技能外国人の介護分野における受入可否は、施設の種別によって異なります。以下の一覧を参考に、自社が対象施設かどうかを確認してください。

    施設・事業所の種別受入可否備考
    特別養護老人ホーム○ 可最も受入実績が多い
    介護老人保健施設○ 可医療連携あり
    介護付き有料老人ホーム○ 可民間施設も対象
    グループホーム(認知症対応型)○ 可小規模でも対象
    デイサービス(通所介護)○ 可日中利用のみ
    ショートステイ(短期入所)○ 可宿泊型も対象
    小規模多機能型居宅介護○ 可(一部)通い・泊まりは可。訪問部分は不可
    障害者支援施設(入所・通所)○ 可(一部)サービス種別の確認が必要
    訪問介護事業所× 不可訪問業務は対象外
    訪問看護ステーション× 不可看護行為は対象外
    居宅介護(障害福祉・訪問型)× 不可訪問業務は対象外

    デイサービスや特養であれば問題なく受け入れられます。一方で小規模多機能型居宅介護や看護小規模多機能型居宅介護は「複合型サービス」のため、訪問部分への配置を行わないよう、勤務シフトの管理と記録を徹底することが重要です。

    介護分野だけが求める「日本語の二重要件」

    介護分野の日本語二重要件の図解

    特定技能ビザ「介護」は、他の13分野と異なる大きな特徴があります。それが「日本語の二重要件」です。

    通常、特定技能外国人は「日本語能力試験(JLPT)N4以上」または「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)A2以上」を取得することで日本語要件を満たせます。しかし介護分野ではこれに加えて、「介護日本語評価試験」にも合格していることが必須です。

    介護日本語評価試験とは

    介護日本語評価試験は、介護の現場で使われる専門的な日本語を測定するための試験です。主な出題内容は以下のとおりです。

    • 介護記録・申し送り表の読み書き(「Aさんの排泄状況」「体位変換の実施記録」など)
    • 利用者への声がけ表現(「食事の時間ですよ」「お薬を飲みましょう」など)
    • 緊急時の報告・連絡の言葉(「急変した場合の報告フレーズ」など)
    • 家族との会話・説明の言葉

    なぜ介護だけが二重要件なのか

    介護の現場は、利用者の生命・安全に直結します。高齢者・認知症の方・障害のある方など、意思疎通が困難な利用者も多く、スタッフには高い日本語理解力が求められます。

    業務上も「記録の正確な読み書き」「緊急時の迅速な報告」「家族への丁寧な説明」など、一般的な日常会話レベル(N4)だけでは対応が難しい場面が多数あります。こうした背景から、介護専門の日本語試験が追加要件として設けられています。

    参考情報

    介護日本語評価試験は、日本語能力試験(JLPT)と同時に受験する必要はなく、独立した試験として受験可能です。ただし、特定技能の在留資格申請時には両方の合格証が必要になります。海外で技能実習(介護職種)を修了した外国人材については、一部試験免除が適用される場合があります(詳細は個別にご確認ください)。

    現場配置・夜勤に関する実務上の注意点

    介護事業者が行政書士に相談しているイメージ

    特定技能外国人を介護施設に受け入れる際、業務範囲の確認と同様に重要なのが「現場での配置管理」です。制度上の要件と実際の運用がずれると、行政指導の対象になることもあります。

    日本人職員との協働配置が原則

    厚生労働省の運用要領では、特定技能外国人が介護業務に従事する場合、同一事業所に日本人の介護職員(または介護福祉士)が在籍し、適切な指導・管理ができる体制を整えることが求められています。

    これは「特定技能外国人だけのフロア」や「夜勤帯に日本人スタッフなし」といった配置を避けることを意味します。特に採用直後の数ヶ月は、OJT担当の日本人スタッフとペアを組み、実務を通じた指導が行える体制をつくることが重要です。

    夜勤の単独従事は「要注意」

    入所型施設では夜勤帯にも要員が必要です。ここでよく問題になるのが「特定技能外国人を夜勤に入れていいか」という点です。

    明文上の禁止規定はありませんが、厚労省の通知では「特定技能1号の介護人材が一人で夜勤を担当する体制は望ましくない」という行政指導的スタンスが示されています。急変対応・緊急報告・他施設・家族への連絡など、夜間に発生する判断業務を単独で担わせることは、安全上のリスクが高いためです。

    「採用して半年のA国出身のスタッフがとても優秀で、夜勤も問題なくこなせると思い、単独夜勤のシフトに入れていました。ところが、行政への報告書類を確認した調査員から『夜勤の配置体制について説明してください』と言われて…」

    これは私が実際に相談を受けた、特養を運営する社会福祉法人の事務長からのご相談です。幸い、業務実態を丁寧に説明することで大きな問題にはなりませんでしたが、採用初年度は特定技能外国人を単独夜勤に配置しないという方針を明文化しておくことが安全策です。

    配置計画のポイント

    • 採用後6ヶ月間はOJT担当日本人スタッフとペアで配置する
    • 夜勤帯には必ず他の日本人スタッフが同一施設内にいる体制を整える
    • 認知症専門棟・看取り対応病棟への配置は、言語・文化対応力を十分に確認してから行う
    • シフト管理表に「指導担当者名」を明記し、指導記録を残す

    よくある質問(FAQ)

    Q技能実習(介護)を修了した外国人を特定技能に移行させることはできますか?

    A

    可能です。介護職種の技能実習2号を良好に修了した外国人は、技能試験・日本語能力試験(JLPT・JFT-Basic)の免除が認められます。ただし、介護分野特有の「介護日本語評価試験」については免除対象ではない場合があります。移行の際は、具体的な免除要件について事前に確認することをお勧めします。

    Q特定技能「介護」は2号へ移行できますか?

    A

    2024年時点では、介護分野は特定技能2号の対象外となっています。特定技能1号での在留期間は通算5年が上限です。長期雇用を希望する場合は、介護福祉士の国家資格取得を経て「介護」の在留資格(専門的・技術的分野)への変更を検討することが一般的です。なお、制度は変化することがあるため、最新情報は出入国在留管理庁のホームページでご確認ください。

    Q1事業所あたり採用できる特定技能外国人の人数に上限はありますか?

    A

    明示的な上限人数は定められていませんが、実務では「日本人常勤職員の総数を超えない範囲」が望ましいとされています。また、受け入れ体制(指導担当者の配置・支援計画の実行など)が適切に維持できる範囲での採用が原則です。大量採用で管理体制が追いつかなくなると、更新申請時に指摘を受けるケースもあります。

    Q介護分野の特定技能協議会への加入はいつまでに必要ですか?

    A

    第1号特定技能外国人が就労を開始した日から4か月以内に、厚生労働省所管の介護分野特定技能協議会への加入が義務づけられています。未加入のまま期限を超えると在留資格更新の審査に影響する場合があるため、採用が決まった段階から加入手続きを並行して進めることをお勧めします。

    Q登録支援機関に委託しないと受け入れはできませんか?

    A

    委託は義務ではありませんが、支援計画の策定・定期面談・生活相談対応・関係機関への連絡調整など「義務的支援」と呼ばれる業務を自社で全て対応できる体制がある場合に限り、委託なしで受け入れることができます。多くの介護事業者は本業との兼ね合いから登録支援機関に委託しており、月2〜5万円程度が相場です。

    まとめ

    特定技能ビザ「介護」は、慢性的な人手不足が続く介護現場の即戦力として期待が高まっていますが、制度を正確に理解しないまま採用を進めると、現場配置の誤りや行政指導につながるリスクがあります。

    • 訪問介護への配置は不可。施設介護・デイサービス・グループホームなどが対象。小規模多機能型は訪問部分のみNG
    • 介護分野は他の分野と異なり「JLPT N4以上」+「介護日本語評価試験合格」の二重要件が必要
    • 現場配置では日本人職員との協働体制を整備し、採用初期の単独夜勤は避けることが安全策
    • 採用後4か月以内に介護分野特定技能協議会への加入が義務。早めの手続きを
    特定技能介護のまとめ

    「うちの施設は対象になるのか」「訪問介護を含む複合型施設だが大丈夫か」「採用したい外国人材がいるが手続きはどうすればいいか」など、ご不明な点がございましたら、当事務所へお気軽にご相談ください。特定技能の在留資格申請から、協議会加入・支援計画の策定まで、ワンストップで対応しております。

    井崎忠弘

    この記事を書いた人

    井崎 忠弘行政書士

    リライアンス東京行政書士事務所の代表行政書士。就労ビザ申請取次・相続・会社設立など幅広い業務に対応。依頼者に寄り添い、わかりやすい説明を心がけています。