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「うちのホテルでも特定技能で外国人を採用できるのか」「求人を出す前に何を確認しなければならないのか」——宿泊業の経営者・採用担当者から、こういったご相談を多くいただきます。
インバウンド需要の回復に伴い、ホテル・旅館業界の人手不足は深刻さを増しています。特定技能ビザは、宿泊業でも活用できる在留資格ですが、制度の仕組みや宿泊業特有の要件を正確に把握しないまま採用を進めると、手続きのやり直しや採用計画の遅延につながります。
この記事では、池袋行政書士事務所「リライアンス東京」の行政書士が、宿泊業における特定技能ビザの受入要件・業務範囲・採用実務のポイントを実務経験をもとに解説します。
この記事でわかること
- 自社ホテル・旅館が特定技能の受入要件を満たしているか
- 宿泊業で従事させられる業務・させられない業務の区別
- 採用候補者の要件(試験・日本語・試験免除ルート)
- 求人前から就労開始までの採用フローと宿泊業特有の注意点
- 実際に相談を受けた「よくある落とし穴」3事例
なお、特定技能ビザの1号・2号の違いや対象分野一覧など、制度の総論については本記事では扱いません。宿泊業での採用実務に絞った内容でお届けします。
宿泊業は特定技能の対象か?まず「受入要件」を確認する
特定技能ビザで外国人を採用するには、外国人本人の要件を満たすだけでなく、受入企業(所属機関)側も一定の要件を満たす必要があります。まずは「自社ホテルが受入企業になれるか」を確認しましょう。
旅館業法の営業許可が必須——民泊・Airbnbは対象外
宿泊業分野の特定技能を受け入れられるのは、旅館業法に基づく「旅館業の営業許可」を取得しているホテル・旅館・簡易宿所の事業者に限られます。
民泊(住宅宿泊事業)は特定技能の対象外
住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく民泊施設や、Airbnbなどのプラットフォームを通じた宿泊事業は、旅館業法の許可業種ではないため、宿泊分野の特定技能を受け入れることができません。ゲストハウス・ホステルであっても、旅館業法の簡易宿所の許可を取得していれば対象になります。
「旅館業の営業許可証」は保健所から交付されます。許可証の業種欄(旅館業・ホテル営業・簡易宿所営業)を確認してください。
特定技能所属機関の欠格要件に該当しないこと
受入企業は、出入国在留管理庁が定める「欠格要件」に該当しないことが必要です。主な欠格事由は以下のとおりです。
- 過去5年以内に出入国・労働関係法令に違反し刑事罰を受けたことがない
- 社会保険・労働保険に適正に加入している
- 特定技能外国人に対して不当な費用徴収をしていない
- 労働条件・安全衛生基準を遵守している
- 法人役員が欠格要件に該当しない
社会保険の未加入は、受入企業として認められない最大のリスクのひとつです。特定技能の採用を検討するタイミングで、社会保険・雇用保険の加入状況も確認しておきましょう。
支援体制の確保(自社 or 登録支援機関)
受入企業は、特定技能外国人に対して10項目の支援(生活相談・住居確保支援・日本語学習支援等)を実施する義務があります。自社で支援体制を整えるか、登録支援機関に委託するかを事前に決めておく必要があります。
ホテル・旅館業では24時間シフト対応の事業者が多く、人事担当者が支援に割ける時間が限られるケースも多いため、登録支援機関への委託を選ぶ事業者が多い印象です。
宿泊業で「させられる業務・させられない業務」を把握する
特定技能外国人に従事させられる業務は、観光庁が定めた範囲に限られます。宿泊業では4つの業務区分が定められており、1人の特定技能外国人がこれらすべての業務に従事することができます(いわゆる「全館業務」)。
従事可能な4業務区分——具体的な業務内容
| 業務区分 | 具体的な業務内容 |
|---|---|
| ①フロント業務 | チェックイン・チェックアウト対応、客室案内、電話・メール対応、予約受付・管理(ホテル予約システムの操作含む)、外国人観光客への多言語案内、貴重品預かり |
| ②企画・販売業務 | 観光情報の提供・案内、旅行プラン・オプションツアーの案内・販売補助、周辺施設・飲食店の紹介、館内サービスの案内・アップセル |
| ③接客業務 | レストラン・バー・ラウンジでの飲食接客、オーダー受付・配膳・下膳、ルームサービス対応 |
| ④館内サービス業務 | 客室清掃(ベッドメイキング・アメニティ補充含む)、共用部分の清掃・整備、手荷物搬送(ポーター業務)、駐車場案内補助 |
1人で複数業務を担当させることが可能
特定技能「宿泊」では、上記4業務のすべてを同一の外国人に担わせることができます。たとえば「午前はフロント業務、午後は客室清掃」といった柔軟なシフト配置が可能です。これは製造業など他分野の特定技能と異なる宿泊業の特長のひとつです。
従事させることができない業務
宿泊業の特定技能外国人を、宿泊サービスと直接関係のない業務に従事させることはできません。たとえば以下のケースは認められません。
- ホテルが経営する農園での農作業のみに従事させる
- 系列の飲食店(ホテルとは別施設)のみでの勤務
- 宿泊施設の建設・改修工事への従事
また、宿泊業の特定技能は1号のみの設定です(2号は設定なし)。在留期間の上限は通算5年となります。
採用候補者の要件と試験について
どのような人を採用できるのかを確認しましょう。宿泊業の特定技能では、技能と日本語の両方で要件があります。
宿泊業技能測定試験(JTBF)の概要
一般社団法人宿泊業技能試験センター(JTBF)が実施する「宿泊業技能測定試験」に合格していることが必要です。試験は学科試験と実技試験で構成されます。
- 学科試験:宿泊業の知識(衛生・安全・サービス・日本の観光文化等)
- 実技試験:チェックイン・ベッドメイキング・清掃手順など宿泊業務の実技
- 受験地:国内外で実施(国内は主要都市。海外はベトナム・フィリピン・インドネシア等)
日本語要件
技能試験に加え、日本語の要件も満たす必要があります。
- 日本語能力試験(JLPT)N4以上の合格、または
- 国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)での合格基準点以上
フロント業務では外国人ゲストへの多言語対応も期待される一方、日本語コミュニケーションが業務上必須です。N4レベルは「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できる」水準ですが、実際の採用では「どの業務に従事させるか」を考慮しながら、より高い日本語能力を求めるホテルも多くあります。
技能実習2号修了者は試験免除——移行ルートのメリット
宿泊分野で技能実習2号を修了した外国人は、技能測定試験と日本語試験が免除されます。すでに自社または他社で技能実習生として宿泊業務を経験している人材を採用する場合、この「移行ルート」はスムーズかつコストを抑えた選択肢です。
移行ルートのポイント
技能実習2号の修了は「同一分野(宿泊)」での修了が条件です。他分野(例:食品製造)での技能実習修了では宿泊業の試験免除は受けられません。技能実習修了者の採用を検討する際は、修了した分野を必ず確認してください。
求人前に確認する採用フロー(宿泊業の実務ポイント)
特定技能ビザで採用するまでには、一般的な求人・採用よりも多くのステップと時間が必要です。逆算してスケジュールを組むことが、採用成功の鍵です。
旅館業の営業許可証の確認、社会保険・雇用保険の加入状況確認、支援体制(自社 or 登録支援機関委託)の方針決定。ここを怠ると採用後に問題が発覚します。
技能測定試験合格証明書・日本語試験結果の確認(または技能実習2号修了証明書)。ベトナム・フィリピン等の国籍の場合、二国間協定に基づく追加書類が必要です。人材紹介会社・登録支援機関経由で候補者を探す場合が多い。
給与・勤務時間・シフト体制・住居提供の有無を確定。宿泊業特有の注意点:24時間シフト制の場合、深夜・早朝の勤務時間帯と時間外割増の計算を雇用条件書に正確に記載することが必要です。社宅・寮を提供する場合は家賃控除額の記載も忘れずに。
国内在留者(技能実習修了者・留学生等)の場合:在留資格変更許可申請。海外在住者の場合:在留資格認定証明書交付申請。申請書類の準備は書類数が多く1〜2ヶ月かかるため、早めに着手してください。
審査期間は標準1〜3ヶ月。許可後に在留カードを確認し、在留資格が「特定技能」に更新されてから就労開始。
雇用開始後4ヶ月以内に「宿泊分野特定技能協議会」(観光庁)への加入が必要。加入証明書の発行に時間がかかる場合があるため、就労開始と同時に申し込みを進めることを強く推奨します。支援計画の10項目支援も開始します。
採用から就労開始まで最低3〜4ヶ月のリードタイムを見込む
「来月から働かせたい」は、特定技能ビザでは現実的ではありません。繁忙期(年末年始・GW・お盆)に間に合わせるには、少なくとも半年前からの準備が必要です。採用計画は早めに動き出すことが成功の条件です。
行政書士が受けた相談から——宿泊業採用でよくある落とし穴
実際に宿泊業の方からいただいた相談をもとに、よくある落とし穴を3つご紹介します。いずれも「事前に知っていれば防げた」ケースです。
ケース①:民泊施設で採用しようとしたが旅館業許可がなく対象外と判明
「民泊で外国人スタッフを特定技能で雇いたいのですが、手続きを教えてもらえますか?」
東京都内で住宅宿泊事業(民泊)を複数施設運営されている方からのご相談でした。Airbnbのプラットフォームで年間を通じて営業されており、人手不足の解消に特定技能外国人の活用を検討されていました。
しかし、住宅宿泊事業法に基づく民泊は、旅館業法の営業許可業種ではないため、宿泊分野の特定技能の対象外です。この方の場合、旅館業の簡易宿所許可を別途取得するか、宿泊業以外の特定技能分野での採用を検討する必要がありました。
「宿泊業=どんな宿泊施設でも対象」という誤解は根強く、事前確認なしに準備を進めてしまうケースが少なくありません。
ケース②:シフト制勤務の記載不備で審査に時間がかかった
ビジネスホテルを経営される方が、特定技能外国人のフロントスタッフを採用した際のケースです。雇用条件書に「シフト制(詳細は勤務表による)」とだけ記載し、具体的な勤務時間帯や深夜割増賃金の計算根拠を明示していなかったため、審査段階で追加説明を求められました。
特定技能ビザの雇用条件書では、月の総労働時間・時給換算額・時間外・深夜・休日割増の計算方法を具体的に記載することが求められます。宿泊業のようにシフトが変動する業種では、この記載が特に重要です。
ケース③:協議会への加入を後回しにして期限超過のリスク
就労開始後、日々の業務が忙しくなり協議会加入の手続きを後回しにしてしまったというご相談も複数いただいています。宿泊分野特定技能協議会への加入期限は雇用開始後4ヶ月以内。期限を過ぎた場合、受入適格を失うリスクがあります。
協議会への加入申請は、就労開始と同時に手続きを開始することを強くおすすめします。申し込みから加入証明書の発行まで時間がかかる場合があるため、早めに動くことが重要です。
よくある質問
Q民泊(Airbnb)やゲストハウスでも特定技能の採用はできますか?
民泊(住宅宿泊事業)は旅館業法の許可業種ではないため、宿泊分野の特定技能は使えません。ゲストハウス・ホステルは、旅館業法の「簡易宿所」として営業許可を取得していれば対象になります。許可証の業種欄を確認してください。
Q客室清掃のみ、またはレストランの接客のみに従事させることはできますか?
宿泊業の業務範囲内(館内サービス業務・接客業務)であれば、特定の業務区分に専従させることは可能です。ただし、宿泊施設内の業務であることが前提です。ホテルとは別施設の飲食店のみでの勤務は認められません。
Q採用から就労開始まで何ヶ月かかりますか?
国内在留者(技能実習修了者等)の場合、書類準備から許可まで通常3〜4ヶ月かかります。海外から呼び寄せる場合は4〜6ヶ月以上かかることもあります。繁忙期に合わせた採用を計画する場合は、半年前からの準備が目安です。
Q特定技能で採用した外国人に、将来的に正社員登用や長期就労してもらうことはできますか?
特定技能1号の在留期間は通算5年が上限です。宿泊業は特定技能2号が設定されていないため、5年後も継続して就労するには、別の在留資格(技術・人文知識・国際業務等)への変更が必要になります。長期就労を前提とした採用計画を立てる場合は、5年後のキャリアパスを見据えた準備を早めに行うことをおすすめします。
まとめ
宿泊業における特定技能ビザの採用は、要件を正しく理解すれば確実に活用できる制度です。ポイントを整理しておきましょう。
この記事のポイントをまとめます。
- 受入企業には旅館業法の営業許可が必須。民泊(住宅宿泊事業)は対象外なので最初に確認する
- 宿泊業の特定技能では4業務区分(フロント・企画・接客・館内サービス)すべてに1人で従事させることが可能。シフトの柔軟な配置ができる
- 採用から就労開始まで最低3〜4ヶ月かかる。繁忙期に間に合わせるには早期の準備が必要。就労開始後は4ヶ月以内の協議会加入を忘れずに
池袋行政書士事務所「リライアンス東京」では、宿泊業・ホテル・旅館での特定技能ビザ採用のご相談を承っています。「自社で採用できるか確認したい」「どんな書類が必要か知りたい」という段階からお気軽にご相談ください。初回相談は無料です。