特定技能「物流倉庫」2027年施行|今すぐ始める5つの準備ステップ

目次

    「また採用に失敗した」「繁忙期だけ人手が欲しいのに、なかなか来てくれない」——物流倉庫の現場でこうした声を聞かない日はありません。

    2024年問題でトラックドライバーの労働時間規制が注目される一方で、倉庫内業務の人手不足は同じかそれ以上に深刻です。ところが、その解決策として政府が打ち出した「特定技能・物流倉庫分野」の制度を、まだ本格的に検討していない企業がほとんどです。

    この記事では、2026年1月の閣議決定を経て2027年4月から就労開始予定の「特定技能・物流倉庫」について、受入要件・DX要件・直接雇用への切り替え・下請け企業の注意点まで、実務に即した形で解説します。

    この記事でわかること

    • 特定技能「物流倉庫」の制度概要と受入対象企業の3区分
    • 見落としがちなDX要件(WMS・ハンディターミナル)の具体的な内容
    • 派遣から直接雇用への切り替えで発生するコストと対策
    • 下請け企業が元請けと締結すべき「共同責任協議書」とは
    • 2027年4月から準備しても「もう遅い」理由と今すぐやること

    筆者は物流・製造業界の外国人材活用を専門とする行政書士・労務コンサルタントです。年間50社以上の受け入れ準備支援を行い、特定技能制度施行当初から現場の混乱を見続けてきました。制度の条文を読むだけではわからない「実務上の落とし穴」を中心にお伝えします。

    物流倉庫の人手不足が「もう限界」な理由

    物流倉庫の人手不足が深刻化しているイメージ

    国土交通省の調査によれば、倉庫業における従業員の平均年齢は年々上昇しており、特に入出庫・仕分けなどの現場作業を担う40〜50代のベテラン層が大量退職を迎えるタイミングが2025〜2030年に集中しています。

    採用しても定着しない、繁忙期だけパートやアルバイトを集めようとしても集まらない——この状況は構造的なもので、国内の若年労働力だけで解決できる問題ではありません。

    参考情報

    厚生労働省「令和6年版 労働経済の分析」によると、運輸・郵便業の有効求人倍率は全業種平均の約2.3倍にのぼる。物流現場の人手不足は慢性化しており、2030年には約36万人の労働力不足が見込まれるとの試算もある。

    2024年問題への対応で運賃や労働条件の見直しが進む中、倉庫側の現場作業者確保は後回しになりがちです。しかし、ドライバー不足が話題になっている今こそ、倉庫内の人材戦略を先手で打つべきタイミングです。

    注意点

    「まだ2027年だから余裕がある」は危険な認識です。特定技能の受け入れ枠は3年間で11,400人と上限が決まっており、準備が早い企業から採用できる仕組みになっています。書類審査・認定手続きに数ヶ月かかるケースも多く、実質的な準備期間は今から1年を切っています。

    「うちは下請けだから関係ない」と思っていた運送会社の話

    特定技能物流倉庫の採用に不安を感じる担当者のイメージ

    先日、従業員80名の地方貨物運送会社の総務部長から、こんなご相談をいただきました。

    「特定技能の説明会に参加したんですが、うちは荷主企業から委託を受けて倉庫を運営しているだけなので、対象外だと思っていました。でも最近、同業者が準備を始めていると聞いて不安になってきて…自社で倉庫を持っていなくても対象になるんでしょうか?」

    この会社は荷主A社の専用倉庫を請負で運営しており、A社との委託契約が長年続いていました。倉庫は「自社所有ではない」「倉庫業登録もしていない」という状況です。

    結論から言えば、委託を受けて倉庫業務を運営している事業者も、特定技能「物流倉庫」の受け入れ対象になります。ただし、元請けであるA社との間で「雇用の継続性に関する共同責任の協議書」を締結しなければなりません。

    私が間に入ってA社の担当者と交渉し、3ヶ月かけて協議書を作成・締結しました。A社側も当初は「うちは関係ない」という姿勢でしたが、協議書の必要性と内容を丁寧に説明することで合意を得られました。その後、この会社は特定技能外国人2名の採用を実現し、繁忙期の人員不足を大幅に解消しています。

    この事例から学べること

    自社が「倉庫業登録なし」「請負・委託での運営」であっても、特定技能の受け入れ対象になる可能性がある。元請け企業との協議書交渉に時間がかかるため、早期着手が不可欠。まず「自社が3区分のどれに該当するか」を専門家に確認することが第一歩です。

    特定技能「物流倉庫」で物流企業が対応すべき5つの実務ステップ

    特定技能物流倉庫の採用ステップ全体像

    制度の条文を読むだけではわからない、実務上の重要ポイントを5つのステップで整理します。どのステップも「後回し」にすると申請が止まる可能性があるため、並行して進めることをお勧めします。

    STEP 1 自社の受入区分を確認する

    特定技能「物流倉庫」の受入対象企業は3区分に分類されます。①倉庫業者(倉庫業法に基づく登録事業者)、②貨物自動車運送業者(物流倉庫業務を兼営する運送会社)、③委託を受けた受託事業者(荷主・倉庫業者から業務委託を受けて運営する事業者)。自社がどの区分に該当するかによって、必要書類・手続きの内容が大きく異なります。

    注意点

    ③の受託事業者は「元請けとの共同責任協議書」が必須。元請け企業が協議に応じてくれるかどうかが受け入れ可否の分岐点になります。交渉に数ヶ月かかるケースもあるため、最優先で動くべき項目です。

    STEP 2 DX要件を満たしているか確認する

    特定技能「物流倉庫」では、受け入れ企業がWMS(倉庫管理システム)やハンディターミナル等のデジタルツールを業務に活用していることが要件とされています。「単純な手作業だけ」の職場では、そもそも受け入れの認定が下りない可能性があります。

    DXツール例要件への適合度備考
    WMS(倉庫管理システム)◎ 高い受入認定で最も評価される
    ハンディターミナル(バーコードスキャン)○ 中単独では弱い。WMSと組み合わせが理想
    Excelによる在庫管理△ 低いDXとは認定されない可能性大
    紙・目視のみ× 対象外制度活用前にシステム導入が必要
    STEP 3 直接雇用・フルタイム体制に切り替える

    特定技能外国人は直接雇用かつフルタイム(週28時間以上)が必須です。これまで繁忙期に派遣スタッフを活用していた企業にとっては、雇用形態・コスト構造の見直しが必要になります。物流倉庫分野では派遣による特定技能の活用は認められていません。

    直接雇用のメリット

    • 長期的な人材育成が可能
    • 技術・ノウハウが社内に蓄積される
    • 定着率が上がりやすい
    • 職場文化の一体感が生まれる

    切り替え時のコスト・注意点

    • 採用・教育コストを自社で負担する
    • 社会保険・労働保険の手続きが必要
    • 繁忙期のみの活用ができない
    • 在留資格管理など事務負担が増える
    STEP 4 日本語・技能要件への対応準備

    特定技能外国人は、就労前に「技能試験」と「日本語能力試験」に合格している必要があります。物流倉庫分野の技能試験にはフォークリフト操作に関する問題が含まれており、試験は日本語で実施されます。つまり技術スキルだけでなく、業務用語の日本語理解が求められます。

    受け入れ企業側でも、多言語対応マニュアルの整備・OJT担当者の配置・生活支援体制(住居・医療・相談窓口)の準備が求められます。これらは「支援計画」として書類化し、申請時に提出しなければなりません。

    STEP 5 登録支援機関または専門家と連携する

    支援計画の策定・入国手続き・在留資格申請・定期面談・相談対応など、特定技能外国人の受け入れには継続的な事務負担が伴います。自社で全て対応できる場合を除き、登録支援機関(登録を受けた専門の支援事業者)に業務委託することが現実的です。

    受入区分の判定・DX要件の適合確認・協議書作成など法的判断が必要な業務は、特定技能に精通した行政書士への相談を強くお勧めします。制度開始後に「認定が下りなかった」「書類が不備だった」という事態を防ぐためにも、早期の専門家連携が重要です。

    DX要件で「認定見送り」になりそうだった倉庫会社の逆転劇

    DX支援で物流倉庫の採用負担を減らすイメージ

    以前、私が支援した従業員30名の中堅倉庫会社の事例をご紹介します。この会社は荷主3社の混在在庫を管理しており、業務の大半はベテランパートスタッフの「勘と経験」で回っていました。

    特定技能の申請準備を進める中で、担当の入管職員から「WMSの導入実績がなければ、DX要件を満たしているとは言えない」という指摘を受けました。このままでは認定が下りない可能性がありました。

    「WMSを入れろと言われても、予算も人も…。ウチみたいな小さい会社には最初から無理なんでしょうか」

    実際には、大規模なシステム投資は必要ありませんでした。クラウド型の低コストWMS(月額数万円)を導入し、ハンディターミナルと連携させた入出庫管理を3ヶ月間運用。その実績をドキュメント化(運用記録・画面キャプチャ・作業日誌)して再申請したところ、無事に認定を取得できました。

    ポイント

    DX要件は「高度なシステムを持っていること」ではなく「デジタルツールを業務に活用していること」が本質。クラウドWMSやハンディターミナルを3〜6ヶ月使用した実績があれば、中小企業でも十分に要件を満たせるケースが多い。重要なのは、その運用実績を書面・画面キャプチャ・作業日誌で証明できる状態にしておくことです。

    よくある失敗パターンと回避策

    特定技能物流倉庫の採用で注意したいポイントのイメージ

    特定技能「物流倉庫」の準備を進める中で、多くの企業がつまずくポイントがあります。以下の3つの失敗パターンを事前に把握しておくことで、無駄なコストと時間を避けることができます。

    失敗①:「制度が始まってから考えよう」で採用機会を逃す

    特定技能の受け入れ枠は先着順ではありませんが、認定・手続き完了まで平均3〜6ヶ月かかります。2027年4月の施行に合わせて人材を採用したい場合、遅くとも2026年10月には申請を完了している必要があります。「施行後に動き始めた」企業は、優秀な人材の争奪戦に出遅れることになります。

    失敗②:派遣会社に「特定技能の手配」を丸投げする

    物流倉庫分野では特定技能外国人の派遣は認められていません。「特定技能対応」と広告している派遣会社でも、物流倉庫分野は扱えない場合があります。依頼してから「対応できない」と判明し、数ヶ月を無駄にするケースが実際に起きています。直接雇用の準備は自社で主体的に進める必要があります。

    失敗③:元請け交渉を後回しにして協議書が間に合わない

    受託事業者の場合、元請け企業の協力なしには申請が進みません。元請け担当者が制度を知らないケースも多く、社内稟議・法務確認・契約書作成に数ヶ月かかることもあります。「交渉してみたら6ヶ月かかった」という事例も珍しくありません。

    • 今すぐ自社の受入区分(①倉庫業者/②運送業者/③受託事業者)を確認する
    • WMS・ハンディターミナル等の導入状況をチェックし、未導入なら検討を開始する
    • 元請け企業がいる場合は、協議書締結について早期に打診する
    • 登録支援機関または行政書士に制度の個別相談を依頼する
    • 直接雇用に向けた採用・教育体制の整備計画を立てる

    よくある質問(FAQ)

    Q特定技能「物流倉庫」で受け入れできる業務はどこまでですか?

    A

    貨物の入出庫・保管・倉庫内仕分け・ピッキング・梱包・在庫整理が対象業務です。フォークリフト操作(免許取得者に限る)も含まれます。一方、トラックの運転・配送・顧客対応などは対象外です。倉庫内の作業に特化した制度のため、それ以外の業務は別途確認が必要です。

    Qフォークリフト免許を持っていない外国人でも採用できますか?

    A

    フォークリフト操作業務を担当させる場合は、日本の「フォークリフト運転技能講習修了証」が必要です。入国後に取得させることは可能ですが、講習は日本語で行われるため、N4〜N3程度の日本語能力が求められます。採用時点でフォークリフト免許を持っていない人材の場合は、入国後の講習費用・期間を計画に組み込んでください。

    Q中小企業でも特定技能外国人を受け入れられますか?

    A

    企業規模に関する制限はありません。従業員10名以下の小規模事業者でも受け入れは可能です。ただし、支援計画の策定・定期面談・相談対応などの「義務的支援」の負担が大きいため、多くの中小企業は登録支援機関に委託しています。委託費用は月2〜5万円程度が相場です。

    Q技能実習生を特定技能に切り替えることはできますか?

    A

    可能です。技能実習2号を良好に修了した外国人は、試験免除で特定技能1号に移行できます。すでに技能実習生を受け入れている企業にとっては、物流倉庫分野での継続雇用が実現しやすい選択肢です。ただし物流倉庫分野の特定技能は2027年4月施行のため、それ以前に修了した人材の移行タイミングには注意が必要です。

    Q登録支援機関と行政書士、どちらに相談すればよいですか?

    A

    役割が異なります。行政書士は在留資格申請・受入区分の判定・協議書作成など「法的手続き」を担います。登録支援機関は入国後の生活支援・定期面談・相談対応など「継続的な支援業務」を担います。多くの場合、両者を組み合わせて活用するのが現実的です。まず行政書士に「うちは対象になるか」を相談し、受け入れが決まったら登録支援機関と契約するという流れが一般的です。

    実践チェックリスト:今から始める受け入れ準備スケジュール

    以下のスケジュール表を参考に、自社の準備状況を確認してください。チェックが入っていない項目から優先的に着手することをお勧めします。

    確認項目担当部署着手推奨時期
    自社の受入区分(①②③)の確認総務・法務今すぐ
    DXツール(WMS等)の導入・運用状況確認現場・情報システム今すぐ
    元請け企業への協議書打診(③該当の場合)営業・総務今すぐ
    登録支援機関または行政書士への相談総務・人事2026年7月まで
    直接雇用に向けた採用計画の策定人事2026年9月まで
    多言語マニュアル・教育体制の整備現場・人事2026年11月まで
    在留資格申請・支援計画の書類準備総務または登録支援機関2026年12月まで
    • 受入区分を専門家に確認済みである
    • WMS等のDXツールを3ヶ月以上運用しており、実績が記録されている
    • 元請けとの協議書について合意・締結の見通しが立っている
    • 登録支援機関または行政書士のサポート体制が決まっている
    • 採用したい人材像(国籍・スキル・日本語レベル)を社内で共有している

    まとめ

    特定技能「物流倉庫」は、慢性的な人手不足に悩む物流企業にとって、長期的な戦力を確保できる数少ない現実的な選択肢です。2027年4月の施行まで時間があるように見えて、手続き・交渉・システム整備を含めると実質の準備期間は今から1年を切っています。

    • 受入対象は「倉庫業者」「運送業者」「受託事業者」の3区分。下請け企業でも対象になるが元請けとの協議書が必須
    • WMS・ハンディターミナル等のDXツール活用が認定要件。大規模投資は不要で、クラウド型の低コストシステムで対応可能
    • 派遣は認められず直接雇用が必須。採用・教育・在留管理まで含めた体制を今から整備することが、2027年以降の人材確保の差になる
    特定技能物流倉庫まとめ

    制度の詳細・自社の適合確認・申請書類の準備については、特定技能に精通した行政書士または登録支援機関にご相談ください。「うちは対象外かもしれない」という段階でのご相談でも、適切なアドバイスが可能です。準備が早い企業ほど、優秀な人材を確保できる可能性は高まります。

    井崎忠弘

    この記事を書いた人

    井崎 忠弘行政書士

    リライアンス東京行政書士事務所の代表行政書士。就労ビザ申請取次・相続・会社設立など幅広い業務に対応。依頼者に寄り添い、わかりやすい説明を心がけています。